太平洋上の戦車隊

アバロンヒル社『The Empire of the Rising Sun』ゲーム紹介 (12号)


 太平洋の戦いは多くのものを想像させる。海兵隊の命知らずの強襲上陸、神風特攻、獲物に忍び寄る潜水艦、真珠湾奇襲の「なぜ」と「もしも」、最終兵器  原子爆弾、そして、果てしない大洋を越えて刃を交える航空母艦のドラマ…。
 1995年夏に名門アバロンヒル社から発売された『エンパイア・オブ・ザ・ライジング・サン』(以下RS)は、『アドヴァンスド・サード・ライヒ(以下A3R)』の太平洋戦争版である。もちろん、連結して“グローバル・ウォー(世界大戦)”をプレイできるようになっており、戦前の各国の外交交渉をテーマにしたシリーズ第3作『ギャザリング・ストーム(仮題)』の発売も予定されている。
 これまでの太平洋戦争戦略級キャンペーンゲームと言えば、いずれもそれぞれに問題を抱え、傑作と呼べるものは存在しなかった。太平洋と大陸の異質な戦いを同時に、そして平等に再現しなければならず、なおかつ高いリアリズムとプレイアビリティが求められる。また、戦略的挑戦が可能で、ゲームとして楽しめるものでなければならない。 ゲームデザインの難度と現代のコンピュータゲームの隆盛を考えれば、RSはこの空白を埋めることのできる最後のボードシミュレーションゲームの一つかもしれない

制海権の話
 海戦史家として名高い佐藤鉄太郎はその著書『帝国国防史論』において「敵海を制せずして陸軍の海上輸送作戦は失敗必至」という戦略原則を述べている。航空主兵主義者であった山本五十六連合艦隊司令長官は南方資源地帯への陸軍の海上輸送の必要性から、西太平洋の制海権を確保すべく、航空兵力による真珠湾奇襲作戦を立案し、そして成功させた。
 RSはA3Rと同様に、BRP(基本経済ポイント)で戦闘部隊や施設を“買い”、移動/戦闘による領土拡張、戦略重要都市の占領によってBRPを獲得していくゲームである。
 日本は石油禁輸措置の影響と米国の強力な経済力に対抗するために、高いBRPを持つ南方資源地帯の速やかな占領が必須となる。ここで問題となるのが、史実通り作戦海域の制海権である。陸軍部隊を安全に輸送するためには、その海域における敵の脅威を可能な限り排除しなければならない。その脅威が米太平洋艦隊であることは、衆目の一致したところである。

戦略兵器としての空母
 近代戦とは、言ってみればロジスティクスの戦いである。当然のことながら、兵力の集中  1回の戦闘に必要な全戦力を同時的に使用すること  の戦略原則は空母戦にも当てはまる。空母は最強の海上戦力であるがため、空母は空母によってのみ破壊されると言う原則が成り立つ。このため、制海権の確保には必然的に空母が必要となる。換言すれば、空母は最も制海権の確保に適した兵器と言うことができる。開戦初頭こそ偵察と弾着観測、戦艦の護衛が主任務であった彼女らが、戦争が進むにつれ、敵海軍の撃滅と敵国の戦争遂行能力の破壊を任務とし、戦争の帰趨を左右するまでになったこと、そして、各国の現在の海軍の在り方がそれを証明しているではないか。
 その空母の最大のセールスポイントが強大な攻撃力と防御力、豊富な機動力にあることは明白である。ここでは、RSの空母に関するルールを紹介することによって、戦略兵器としての空母の有効性を問いてみたい。

太平洋上の戦車隊
 太平洋戦争の最大の特色は、言うまでもなく空母の優越性である。果てしない距離と陸上航空基地の少ない太平洋  世界で最も広い海  では、空母こそが太平洋を越えて軍事力を投射できる兵器だったのである。日本海軍の真珠湾奇襲における米空母撃滅の失敗、ミッドウェー海戦での4隻の日本主力空母の喪失、戦争後半の米軍のエセックス級空母を始めとする圧倒的な数的優位は太平洋戦争の決定的要因であった。
 A3Rが装甲部隊と航空戦力を中心としたゲームであるように、RSは海戦を中心としたゲームである。戦争の帰趨は大陸でも南方でもなく、太平洋で決まるだろう。艦隊基地を獲得、保持するための闘争がRSの戦いなのである。
 RSでは、戦略的情報の不確実性を反映して、両軍とも6個のタスクフォースマーカーが使用される。ダミーマーカーはないので、プレイヤーは敵艦隊の構成をある程度推測できるのだが、常に不確定要素が残っているのも事実である。
 艦隊の作戦行動範囲の制限を考慮すれば、前進基地の重要性も明白である。艦隊戦力の移動と攻撃任務は最大20ヘクス、迎撃は15ヘクスまで行うことができる。補給や輸送、戦略再配置は10ヘクスごとに1ヘクスの島か港湾を中継しなければならないことになっている。

空母の戦闘力
 空母の攻撃力とは、すなわち艦載航空兵力を意味する。その強力な攻撃力と優れた事態対応力は他の兵器の追随を許さない。
 RSでは、戦闘結果表で艦船の攻撃力と比較することができる。航空攻撃と砲撃戦は異なるCRTを使用するが、同じ戦闘力でも敵に与える損害は航空攻撃の方が2〜3倍は多くなっている。
 また、被攻撃艦船が行う対空防御表を見ても、それらが被る損害に対して、航空機に与える損害は微々たるものである。
 戦闘発生時においても、水上艦艇が敵艦隊と砲撃戦に持ち込めるのは第3ラウンドからである。敵に航空兵力が存在すれば、それまでに3回の航空攻撃に晒される。砲撃戦は航空攻撃の結果適用後に行われるのである。
 事態対応力も見逃せない。空母はいかなる場所にでも(艦載機の3ヘクスの航続距離内であればの話だが)、必要な時に必要なだけの戦闘力を投入できる。
 A3Rの1航空戦力(RSでは陸軍航空部隊=AAF)はさらに分割され、海軍航空戦力(=NAF)としてユニット化されている。これにより、1隻の空母が複数個のユニットを“艦載”して、それぞれ異なる任務に割り当てることができるようになり、作戦行動に柔軟性を与えている。
 RSの空母艦載機は水上戦に行われる攻撃任務、防御任務に加えて、地上支援、防御側地上支援の迎撃、敵艦隊への攻撃、陸上航空基地への攻撃のいずれかを行うことができる。つまり、空母艦載機は水上戦の間に敵の攻撃を何度でも防御し、迎撃してきた敵艦隊を何度でも攻撃し、敵陸上航空基地を何度でも攻撃することができ、なおかつ一つの攻撃任務を行うことができるのである。
 通常の艦隊やAAFが一つの任務や迎撃を行うと裏返されて、そのゲームターン中は行動不能になるのに対して、空母NAFは決して裏返されることはないのである。

沈まない空母
 ここで言う空母の防御力とは、生存力を意味する。空母自体の防御力が本当の意味で重視され始めたのは、大鳳やエセックス級空母からである。それまでの空母の防御力はあまりにも脆弱であった。
 RSでは、空母は強力な防御力を持つ。ある種の奇襲を除いて、損傷を受けることはあっても、空母は簡単には沈まない。正規空母は3、軽空母は2の防御力を持つ。これらを損傷させたり、沈めることは同戦力の艦隊戦力よりも困難である。空母を沈没させるためにはその防御力全てを沈没させなければならないのである。防御力以下の損害は、全てダメージコントロールで修復されたものと見なされ、空母は作戦を続行できる。
 米軍が数々の戦訓を十分に生かし、空母と言う兵器の重要性を正しく認識したように、プレイヤーも適切な防御戦術を運用すれば、空母はさらに不沈性を増すことができるようになるだろう。
 正規空母は再建に2年、軽空母は1年を要し、その間自国の艦隊再生産能力を消費し続ける。このため、プレイヤーは艦隊戦力の補充を優先するか空母の再建を優先するか選択を強いられる。特に日本の艦隊再生産能力は、戦闘で予想される損害率に対し甚だしく不十分である。
 また、ロジスティクスの問題もゲームに反映されていることも付記しておこう。RSでは、損傷した艦船は港湾に帰ると直ぐに修理されたものと見なされるのだ。

高い機動性
 ドイツ軍の電撃戦が成否が装甲兵力の機動力に大きく依存していたように、太平洋でもそれは重要なのである。
 そもそも戦争というものは、イニシアティヴを握ることが重要である。イニシアティヴを持つことができれば、自軍にとってより有利な時間に、より有利な空間で、より有利な兵力で戦うことができるからだ。兵力集中の原則を忠実に守るためには、イニシアティヴを握ること  機動力  こそが重要なのである。
 空母はその高い機動性から上述したように戦場を選ぶことができる。空母の機動性に対抗するためには同じだけの空母戦力が必要である。ここで、また空母の重要性が再認識される。
 RSでは、プレイヤーはこの機動性の意味合いをしみじみと実感できる。例えば、トラックに日本軍の機動部隊が存在している場合、連合軍は迎撃される危険からニューギニア方面に自由に展開できない。それらに対抗するためには同数以上の空母戦力が必要なことは自明の理である。
 そして、その空母の機動性をシミュレートしたルールが、新しく加えられた「哨戒」である。その要点は、機動部隊が停泊している港湾から20ヘクスの範囲内に“基地変更”できると言うことにある。そして、この地点から敵航空基地を攻撃できるのである。航空部隊はさらに、戦闘フェイズに任務を行うことができる。海ヘクスで哨戒中の機動部隊はそのヘクスを起点として、カウンター迎撃も行える。
 ただし、哨戒には危険も存在する。哨戒ヘクスで迎撃を受けた場合は、特殊な手順によって迎撃が解決される。攻撃側は防御側の迎撃が宣言される前に艦載機の任務(CAP、陸上航空基地攻撃、艦船攻撃)を決定しておかなければならないのである。迎撃が宣言された後、哨戒部隊の攻撃が奇襲になるかどうか決定する(これには、周辺の敵陸上航空部隊が大きく影響を及ぼす)。奇襲に成功すれば、哨戒部隊の航空攻撃は迎撃される前に解決され、防御側はただちに結果を適用される。失敗した場合は、通常通り迎撃が先に行われる。ミッドウェー海戦のように、敵陸上航空基地に対する攻撃準備をしていた艦隊が「哨戒」によって迎撃され、甚大な損害を被ることが再現されることがあるのだ。
 迎撃部隊が哨戒部隊との戦闘で勝利した時、彼らはそのヘクスを起点に新たに「哨戒」することができる。周辺海域の他の敵部隊をさらに迎撃できるのだ。これは、実質的に戦闘に勝利した迎撃部隊が、その海域の制海権を獲得したことになる。
 この「哨戒」ルールは両刃の剣であるが、攻撃側が数的優位にあるか、奇襲できた時は実に強力である。フェンシングの試合の想起させる空母戦闘を的確にシミュレートするに成功していることは間違いない。

再び真珠湾へ
 ここでRSにおける真珠湾奇襲作戦が両軍に与える影響を、実際のプレイを通して考察することにする。
 RSの真珠湾奇襲は、特別ルールで規定されている。3隻の米空母はそれぞれ2個のサイコロを振って、その所在を決定する。いずれも真珠湾内に停泊している可能性は10数%である。逆に、真珠湾近海にいて日本軍を迎撃できる可能性も存在する。
 筆者は日本軍を担当し、真珠湾奇襲を行った。そして、湾内に停泊していた空母サラトガを沈めることに成功する。さらに第二次攻撃も敢行、艦隊戦力にも大打撃を与える。それによって、米太平洋艦隊は戦力の30%を失った。
 1942年夏、フィジー沖に進出した日本軍機動部隊を米主力艦隊が迎撃、空母決戦が発生した。しかし、米軍は数的、質的全ての面において不利にあった。真珠湾ショックから立ち直れていなかったのである。空母戦力は6対5と遜色はなかったが、日本軍艦載機はエリートパイロット(常に+1修正)が搭乗、支援兵器である艦隊戦力の差が2倍近くあった。これは、索敵に大きく影響した。両軍の9艦隊戦力以上で構成される戦闘グループの数が、索敵ロールを修正するのである。その結果、日本軍は米空母の攻撃に晒されることなく、エンタープライズとヨークタウンを撃沈する。
 以後、日米両軍の空母兵力比は2対1となり、米軍は日本軍機動部隊の行動を牽制する手段を失い、次々と太平洋の重要拠点を失陥していくのである。
 このプレイでは、艦隊戦力の喪失が間接的アプローチの役目を果たし、結果的に米軍は空母を失うことになった。そして、後の展開は戦略兵器としての空母(機動部隊)の重要性をはっきりと認識できる好例であろう。
 では、もしここで米空母が全て真珠湾で撃滅されていたら、どうなっていただろうか?答えは簡単である。日本軍は1942年中にハワイを攻略しているのである。まさしく、山本長官の望んだ短期決戦での勝利が実現するのである。
 真珠湾で米空母撃滅に成功した日本軍は、脅威のなくなった太平洋を縦横無尽に駆け巡り、破竹の進撃をすることだろう。1942年夏にはウェーキとミッドウェーが陥落、真珠湾と東海岸を結ぶ連絡線の遮断に成功する。しかし、米軍には対抗すべき手段がない。空母に対抗すべき兵器がないのである。

実際にプレイしてみると…
 いろいろと書いてきたが、シミュレーションゲームの評価はこれらのルールが有機的に結合して、プレイヤーにリアリズムと苦悩と興奮をどれだけ提供できるかにかかっている。そして、筆者は素晴らしい体験をすることができた。
 戦闘はシンプルにしてダイナミックである。特に海戦は駆け引き的要素がふんだんに盛り込まれており、プレイヤーの決断が太平洋の行く末を大きく左右することになる。 陸上戦闘もアバロンヒルクラシックを彷彿させる大胆なものである。単純な戦闘比のCRTはサイコロの目が1つ違えば、攻防どちらかが全滅することもある。実際にプレイして見れば、太平洋戦争がいかに激しい消耗戦であったか、そして日本と言う資源なき海洋国家の実力をしみじみと実感できる。
 必然的に複雑になった空母システムも慣れてしまえばスムーズに行えるようになる。最大規模の空母戦闘でも、15分程度で解決できるだろう。空母にはその兵器としての柔軟性から、あらゆる可能性がシミュレートされている。しかし、彼女たちがしなければならないことはただ一つ−−敵空母の撃滅−−なのである。
 プレイタイムも、同テーマの他のゲームと比べてもそんなに長くはない。3連休を利用すれば、太平洋の戦いを充分に満喫できること請け合いである。たしかに、ルールだけを見れば、A3Rよりも複雑にはなっている。しかし、扱うべきユニット数が圧倒的に少ないのだ。A3Rで最も複雑だった外交に関するルールは、太平洋戦争には存在しない。戦いの図式は、ゲーム開始時に明確に示されている。日本の敵は米英なのである。
 日本軍の侵攻計画も、他のゲームに見られるような複雑なものではない。筆者はマップにユニットを順番に置いていき、30分程度で立案できた。分厚いルールブックを読んでいる間は、これらのシステムが果たしてうまく機能するのか不安であった(本当はプレイ不可能と思っていた)が、いざ手を染めてみると、数回のプレイで普通のゲームと同じ感覚でプレイできるようになった。そして、プレイアブルな分だけ、戦略に集中することができる。
 日本人デザイナーによる太平洋戦争キャンペーンゲームが『太平洋艦隊』と名付けられ、米国人デザイナーによるものが『陽の昇る帝国』と名付けられた。一種の皮肉すら感じてしまうのは筆者だけであろうか?
 そして、『太平洋艦隊』が勝敗を度外視した歴史を追体験(そう、副題は「The decline and fall of the Japanese Empire」!)するゲームであるのに対し、RSは太平洋戦争のあらゆるifを徹底的に楽しめるゲームなのである。
 百聞は一見に如かず。ビッグゲームには、それを経験した者にしかわからない何かがあるのだ。


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更新日 : 2000/08/17.