巨人のアキレス腱を仕止めよ!

付録ゲーム『戦艦ビスマルクを撃沈せよ!』作戦研究 (19号)


 『シンク・ザ・ビスマルク!』は、本誌10号で紹介した『キャンペーン・フォー・ガダルカナル』や、今年発売が予定されている『BLOODY OCTOBER(邦題『血染めの10月−−ガダルカナル決戦)』などをデザイン、“ガダルカナル戦の鬼”の異名をとるマイケル・S・スミス氏が手掛けた、典型的な作戦級海戦ゲームである。ゲーム自体は非常にプレイアブルに仕上がっおり、なおかつ水上戦闘、航空攻撃、天候、視界、探知、輸送船団、追撃戦など、盛りだくさんの要素が欠落することなくシンプルにまとめられている傑作である。
 戦術レベルの海上戦闘を扱った『戦艦の戦い』とは一線を画しており、よりマクロ的な視点から見た各艦種や兵器の特徴がよく出ている。
 今回は、ヒストリカル・シナリオの作戦研究の中で、「ライン演習」作戦におけるドイツ海軍部隊の執り得た選択肢と英軍の戦略を検証してみたい。
 作戦級海戦ゲームをまだプレイしたことがないといった読者の方々、心配は御無用である。実は、筆者もこの『シンク・ザ・ビスマルク!』が初めての海戦ゲームで、瞬く間に魅了された一人なのだから。
 なお、第二次世界大戦におけるドイツ海軍の戦略や史実の推移、各艦船のデータなどは、今号の他の特集記事を参照していただきたい。

ビスマルクの戦闘力
 当時世界最強と謳われたビスマルクの豊富な攻撃力と耐久力は、『シンク・ザ・ビスマルク!』でも大きく反映されている。
 一般に注目されるのは、乗組員の高い練度である。優秀な砲術士に操られたビスマルクの15インチ砲は、砲戦において常に+1修正が付き、英軍の空母、軽巡クラスならば、ほぼ50%の確率をもって一撃で海底に葬り去る。
 防御面をみても、防御修正値−3、損害許容値20は、英戦艦の追随を許さない。しかも、独艦船のダメージコントロールに有利な修正が加えられることから、その数値にはさらに+αが付加される。
 これらの修正は、重工業の発達したドイツが各種兵器の製造技術に長けていたことも、一因と考えられる。特に、鉄鋼のプレス技術は目をみはるものがあり、旧日本海軍も大和建造にあたってドイツから鋼板を輸入している。
 砲身製造技術も、不思議なほどよく当たる戦車砲をみれば、一目瞭然であろう。
 ベアリングやゴム一つの品質をとってみても、繊維、織物など軽工業中心だった当時の日本とは、雲泥の差があったのだ。

戦場の霧
 海戦における索敵の重要性は、日本帝国海軍が大敗北を喫したミッドウェー海戦を見れば明らかなように、海戦ゲームのそれも、そのゲームの出来を左右すると言われるほど重要なファクターである。
 そして、『シンク・ザ・ビスマルク!』のそれは、ダミー・マーカーとプロットをうまく組み合わせることによって、非常に完成度の高いシステムを作り上げている。
 ダミー・マーカー・システムは、アバロンヒル社『ビスマルク』で用いられたブラインド・サーチ・システムと、なにかと比較されることが多い。しかし、どちらが優れているかと問われれば、筆者は迷わずダミー・マーカー・システムと答えるだろう。
 ブラインド・サーチ・システムはマップ上にユニットを置かないため、完全に艦隊位置を秘匿できるように見えるが、実際のプレイでは、索敵箇所を告げなければならなかったりして、敵プレイヤーにある程度の情報を与えなければゲームが進行しない、根幹に欠陥を持つ不完全なシステムなのである。公平な第三者が間に入れば、ブラインド・サーチ・システムは完全なものとなるが、ルールを完全に理解している審判を、プレイの間ずっと拘束しておかなければならないという、対戦型ゲームとしては大きな欠点を抱えることになる。
 一方、ダミー・マーカー・システムはマップ上に直接マーカーを置いてしまうため、敵プレイヤーにある程度情報を与えてしまうことになるが、これはダミー・マーカーの数を増やすことによって、解消できる問題である。ツクダ・オリジナル社の『航空母艦』がよい例だろう。
 逆に、マップ上にマーカーを置いているがために、前号の記事でも触れていたように、探す側にはそこに向かわざるを得ない状況を強いることもできる。
 こうなると、プレイアビリティを問われそうだが、それはどちらのシステムも似たようなものではないだろうか。ただし、『シンク・ザ・ビスマルク!』のように、誰にでも気軽に楽しんでもらおうというコンセプトに基づいたゲームでは、断然ダミー・マーカー・システムが有効である。
 余談になるが、両軍の艦隊シートには感心させられた。艦隊番号もマーカーになっていて簡単に変更できるので、マップ上のマーカーを動かさなくても欺瞞工作がある程度可能になっているのだ。心理戦がことさら重要なファクターとなる海戦ゲームだが、このゲームではつまらないことで艦隊位置が露呈するようなことはないだろう。
 さらに、ダミー・マーカー・システムは、マップ上に直接マーカーを置いて両軍プレイヤーがルールや位置を確認し合えることから、“間違い”が起こりにくいといった特性を持っていることも挙げておこう。
 そして、同時進行性を保つために、『シンク・ザ・ビスマルク!』ではプロット・システムを採用している。独軍部隊のプロット→英軍部隊の移動の実行→独軍部隊の移動の実行という手順でゲームは進む。
 プロットするのは独軍プレイヤーだけ(それも、本物とダミー合わせて、たった4個のマーカーの移動をプロットするだけ)で、ユニットの多い英軍プレイヤーは普通の陸戦ゲームのようにマップ上のマーカーを移動させるだけでよい。 ユニットの少ない独軍だけにプロットを用いることによって、高いプレイアビリティを維持しながら、緊迫する同時進行を再現するのに成功している。
 両軍に、特に偏ったターン・シークエンスを用いることは今流行のルール形態であるが、それは当時おかれていた状況や本質の異なる二つの軍が登場するゲームでは、それらを共通の枠に当てはめる必要がなくなり、特別ルールなどを用いることなく、自然に両軍の特徴を再現することができる、優れた方法の一つなのである。

シーレーン
 勝敗は、艦船の撃沈と盤外突破、輸送船団の英本土到着によるVPの差で決定されるが、VPの偏重に大英帝国のシーレーンの重要性が見られる。戦闘力が皆無の輸送船団が10〜20VP、しかし、ビスマルクの最も脅威となり得る英空母が20VP、戦艦でも15VPしかない。
 得点の関係上、英軍はビスマルクを沈めなければ勝利は厳しい。一方、独軍は英輸送船団を攻撃した後、自軍が支配している港湾に帰港、もしくは南方海域の突破を目指す。英軍の戦闘部隊と戦い、勝利する必要はないのである。
 独軍部隊は、アメリカ本土や喜望峰回りの輸送船団が英本土に到着することによって、英軍プレイヤーが得るVPを上回らなければならない。ゲーム終了時までには、最低でも20〜25VPは確保しておきたいところだ。

追うものと追われるもの
 それでは、ドイツ海軍部隊の執り得た作戦とその可能性を、実際のプレイに沿って考えていきたい。
 ビスマルクが英軍の哨戒網を突破する作戦には、大きく分けて3つのルートが用意されている。
 最北にあるデンマーク海峡は、史実でビスマルクがたどったルートである。最も被発見率が低く、“霧”が発生することで、ノルウェー沖まで引き返し、突破を再び試みられることが魅力である。英軍がこの海域にダミーを配置している可能性は極めて低いが、たとえ発見されたとしても、敵戦力は重巡以下が数隻と微弱である。海戦が起こっても、ビスマルクが致命傷を被ることはまずないだろう。ただし、英輸送船団の航路から遠いため、ビスマルクがそこに到達する頃には、消去法的に所在が判明している可能性が高い。
 そして、独海軍本部も強い興味を示していたアイスランド〜フェロー諸島の間を通るルート。3308、3309、3410に3枚の英艦隊マーカーが並べられるが、ゲーム開始時の英軍の戦力を考えると、まず2つはダミーとみて間違いないだろう。 また、その兵力に対して海域の幅が広いことから、英軍の戦力が最も希薄なルートと言える。
 ただし、東に8ユニットで構成される英主力艦隊、西にプリンス・オブ・ウェールズとフッドが待ち受け、英軍の艦船が最も集まりやすい海域でもあるので、いったん捕捉されてしまうと、振り切ることは非常に困難である。
 ハイリスク、ハイリターンの典型とも言える、博打的要素の高いのが、フェロー諸島〜シェトランド諸島の間を通るルートである。ビスマルクは英軍の航空部隊と主力艦隊が待ち受ける海域に正面から飛び込むことになる。しかし、それを振り切ることができれば、密集している英輸送船団を各個撃破して高得点を期待できる。特に、3515 に配置され、南下していくWS8Bの輸送船団が20VPであることは、初期配置の関係上、周知の事実なので、これを沈めた後、そのままフランスやスペインに逃げ込むことができれば、独軍の勝利は確実になるだろう。
 コンピュータ・ゲームと違い、人間同士が対戦するゲームでは、特に海戦のような断片的な情報しか入ってこない場合は、心理戦がクローズアップされる。敵プレイヤーの癖や視線、言動、表情などをよく観察しろとは、よく言われるところである。
 独軍プレイヤーは、特に行動が単調にならないように気を付けよう。たとえば、ビスマルクの艦隊マーカーをいつも最後に移動させてばかりでは、英軍プレイヤーはすぐにその所在を看破してしまうだろう。
 また、ダミー・マーカーの一つはなるべく索敵されないところへ移動させ、常に英軍プレイヤーの思考を惑わせる努力を怠らないように。ゲームとは不思議なもので、そういった未知の不安が対戦者のサイコロの目に影響したり、ミスを誘うのである。
 ビスマルクが大西洋への突破をはかる中、英艦隊、もしくは航空部隊マーカーと交差すると「索敵」が行われる。しかし、大西洋は天候が不安定で、索敵は基本的に50%程度の確率でしか成功しない。索敵する艦隊の艦数や天候が修正となり、レーダー搭載艦や航空機によるものであれば非常に有利になるものの、この修正には上限が設けられており、発見できない確率は常に20%存在する。三回に一度訪れる夜間ターンなら、その確率はさらに上昇する。この時、前述したように索敵されなかったマーカーが一つあると、少なくとも残った一つがビスマルクというような、消去法的に位置が発覚する事態は避けられるはずである。
 「索敵」に成功した英艦隊、航空部隊は、ビスマルクの「追尾」を試みる。これに成功すれば、ビスマルクは自ら戦端を開くことができなくなり、移動も英艦船よりも先に直接マップ上で行わなければならなくなる。
 しかし、「追尾」を試みる英艦隊も、いくつかの条件を満たしていなければならない。彼女らは、「追尾」される艦の速度値より同数以上のそれを保持していなければならず、「追尾」される艦が移動を終了するヘクスまで移動力を残していなければならないのである。もちろん、航空機でも追尾はできるのだが、その作戦行動範囲は制限され、実用的ではない。
 その上、成功率は不安定なものである。史実でも、重巡サフォークとノーフォークが途中でビスマルクを見失ったように、ゲームでもそれは“たまに”起こる。「追尾」の維持に失敗した場合、再び「索敵」を試みるところから始めなければならない。
 しかし、その時点で独軍プレイヤーは再びダミー・マーカーを駆使して、あらゆる欺瞞工作を試みるだろう。4つの艦隊マーカーが別々の方向に移動する。しかし、英軍がその全てを索敵するのはとうてい無理な話である。
 独軍プレイヤーは初期配置時、もしくは英軍哨戒網を突破し、広い大西洋が視界に入ったところで、ビスマルクに随伴するヒッパー級プリンツ・オイゲンを分派する作戦が考えられる。これまでの関連記事の多くが、この作戦を推奨しているようだが、筆者は疑問視している。
 たしかに、ビスマルクと行動を共にしても、彼の敵は戦艦であり、たとえ海戦が起こっても、援護どころかA射程距離の間に為す術もなく撃沈されるかもしれない。それならば、その優勢な速力を生かし、敵戦力の攪乱と独自の輸送船団襲撃を主任務にすべきと考えるのは、自然の流れである。
 しかし、ここでスピードの問題が浮かび上がってくる。
 残燃料の問題もあるのだが、ビスマルクが最高速度の3移動力を維持してうまくたちまわっている限り、同じ最高速度しか持たない英戦艦の全て(中には2移動力といったものもある)は、彼に追いつけないのである。4移動力を持つもののほとんどは巡洋艦以下の艦船であり、プリンツ・オイゲンがそれらに対抗することは十分可能である。しかも輸送船団の護衛と戦う時は、戦力の集中をはかる方が兵理にかなっている。
 また、4移動力を持つプリンツ・オイゲンを分派した場合、その行動を制限するために、英軍は少なくとも数隻の巡洋艦が必要となり、それだけビスマルクに対して「索敵/追尾」を試みる英艦船が減ることになるはずなのだが、各個撃破され、敵にVPを与えてしまう危険も常にはらんでいることを忘れてはならない。
 “演習”を終えたビスマルクは、ニューファンドランド島〜アゾレス諸島の間を通ってのマップ南端からの突破か、エル・フェロールへの帰港が最も現実的なゲームを終わらせる方法である。ノルウェーの港湾は論外、フランスの2つの港湾も、いずれもプリマスの英軍爆撃機の作戦行動範囲内にある。スペインのエル・フェロールだけがその影響を受けないところに位置しているのだ。
 ビスマルクが帰投を決断した段階で、最高速度を維持していれば南へ、損傷によって速度が低下していれば、スペインへ向かうのが一般的な見方である。

サー・ジョン・トービーの苦悩
 一方、英軍プレイヤーは、どうすればビスマルクを捕捉撃滅できるのだろうか。
 英軍プレイヤーは、初期配置で分散している兵力をいかに効率よく再編成しながら、ビスマルクを追えるかがポイントとなる。「マップ上に存在できる艦隊は13個まで」という厳しい制限の中で、空母や巡洋艦といった高速艦艇は低速な戦艦と分派し、高速機動部隊を編成すべきである。
 また、駆逐艦や巡洋艦1〜2隻ずつの索敵、追尾を主任務とした艦隊を複数編成し、ビスマルクの予想進路に目の細かい哨戒網を構築する必要にも迫られる。
 艦隊分派用に常に1つの艦隊はダミーにしておかなければならない(艦隊ボックスに空きを作って余裕を持たせておく)。こうしておかないと、索敵に成功したものの、分派できなかったがために、みすみすビスマルクを見逃してしまうことにもなりかねない。
 前述したように、ビスマルクが最高速度で移動する限り、速度が同等、もしくはそれ以下である英戦艦が追いつくことは困難である。高速な巡洋艦がビスマルクを追尾することは可能だろうが、戦力的に対抗できない。もし、刃を交えるようなことがあれは、英軍プレイヤーはビスマルクの圧倒的な強さに打ちのめされるだけである。
 こうして考えていくと、唯一ビスマルクに対抗できる艦、豊富なスピードと高い攻撃力を兼ね備えた兵器、それは空母ではないだろうか。

航空主兵の波
 『シンク・ザ・ビスマルク!』に登場する2隻の英空母は、半径2ヘクスの目標に高い攻撃力を指向できる、非常に便利な兵器である。その攻撃力は戦艦には及ばないものの、巡洋艦の戦闘力をはるかに凌駕している。
 アークロイヤルから飛び立ったソードフィッシュが、ビスマルクの舵を破壊したことは有名な話であるが、時代遅れの複葉機に世界最強と謳われた戦艦が事実上撃ち倒されたとは、なんとも皮肉な話である。やはり、魚雷の発達による航空機の優勢は、大西洋でも覆られなかったのである。
 ただし、彼女らの移動には細心の注意が必要である。海戦は基本的に「同一ヘクスにいる艦船は全て戦闘に参加しなければならない」ことになっているので、ビスマルクの15インチ砲は、VPの高い彼女らをたいてい一撃で水面下に葬り去ることだろう。そのため、決して戦艦と一緒に砲戦に巻き込まれることのないよう、他の艦がビスマルクの追尾に成功してから攻撃に参加するほうが良いと言える。

 ゲームは4〜5時間もあれば決着がつく。ルールも非常に簡単で、初心者でも数回の練習で存分に楽しめるようになる。かといって、簡単なゲームと思ってもらっては困る。作戦上の選択肢は豊富で、ルールの完成度も高い。上級者といえど、しばしば厳しい決断を迫られることだろう。
 大西洋の戦いに興味の薄い人にとっては、知らない艦ばかりが登場すると思われるかもしれないが、ビスマルクやプリンス・オブ・ウェールズの名前くらいは耳にしたことがあるだろう。
 プリンス・オブ・ウェールズは、ご存じのようにマレー沖で、日本軍機の攻撃で沈んだ戦艦である。当時、最新鋭として期待されたが、機械的故障が後を絶たず、乗組員の訓練も不十分だった。なにせ、度重なる修理のために、造船所の職員が乗り組んでいたくらいなのである。 しかし、そんな彼女もビスマルクとの戦闘以後、轟沈するフッドを見捨てた“逃げ出した艦”と蔑視され、艦もその乗組員も周囲から嫌悪された。もちろん、その戦闘では同艦も甚大な損害を被っており、戦域離脱は正しい判断だったことは言うまでもない。
 しかし、今こうして考えてみれば、遠く離れたマレー沖でその短い生涯を終えたことは、彼女にとっては逆に幸せだったのかもしれない。


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更新日 : 2000/08/17.